【考察】ダンスによる子どもへの知育効果はあるのか?

ダンスは幼児期〜子どもに人気の習い事

幼児期から小学生の習い事として人気が高まっているダンス。登美丘高校ダンス部・バブリーダンスやDA PUMPのUSAは大ブームを巻き起こしました。世界的ダンサーとして数多くの実績があるDA PUMPのパフォーマKENZOさんなどの有名アーティストやK-POP、アイドルに憧れてダンスを始めるという子どもも多いのではないでしょうか。

0歳~9歳の子どもを対象とした習い事ランキング(アクトインディ株式会社)によると、2016年には「ダンスに通わせたい・すでに習っている」の割合は全体の7%でしたが、2017年には16.9%に急増しています。ちなみに、このダンスはバレエやリトミックとは区別されています。昨今のダンス人気を裏付ける結果となりました。

小学生をもつ親への調査(株式会社ヤマハミュージックジャパン:2016)では、子どもが習っているダンスのジャンルではストリート系ダンス(ヒップホップなど)が72.3%とダントツに高く、ジャズ、バレエ、チアと続いています。また、小学生がダンスを習っている割合が12.5%で、その親が子ども時代にダンスを習っていた割合は2.7%でした。ダンスのジャンルではヒップホップの人気が高く、ダンス経験のある親以上に子どもの数が多いことがわかります。

学校でのダンス教育は明治時代から始まっていた!

2012年から小中学校の体育に必修化されたダンスですが、明治30年代の小学校における女子の体育では、すでにダンス教材「唱歌遊戯・行進遊戯」がありました。ちなみに男子は「競争遊戯」と言われるスポーツで、男女が分かれて授業が行われていました。さて、明治時代のダンスとはどのようなものだったのでしょう。

歌いながらさまざまな方向に行進して、行進しながら決まった形を造るものでした。音楽は、歌うことよりもリズムに合わせて動くための速さを調節することが重視されていました(明治期における小学校体育にみるダンス教材の変遷/笠井里津子他2名/日本体育大学紀要/2012)。

マーチングや吹奏楽部でみられる隊形移動のようなものです。明治時代は、体育と言っても着物で、髪は七五三の女の子の髪型でも知られる「桃割れ」でしたから、激しい動きはできなかったでしょう。楽しいというよりも凛とした雰囲気といった方がよいかもしれません。

他方、もっと前にダンスの指導が行われていたこともわかっています。それは、明治10年以降に、一部の女学校で外国人女性宣教師からテニス、バスケットボール、柔軟体操、ダンスなどの指導を受けていたというものです(近代スポーツ史における女性の地位/掛水通子/東京女子体育大学/2016)。

このように、明治30年代の小学校での行進遊戯といわれるものが日本のダンス教育の始まりといえます。

現在の学校教育での「ダンス」の位置づけ

今までのダンスといえば、フォークダンスと創作ダンスでした。ダンスが得意で楽しみにしている生徒がいる一方で、そもそもダンスは見るのは好きだけど実際にダンスをするのは苦手という生徒もいるでしょう。では、学校教育でのダンスでは、どのようなことをねらいとして考えられているのでしょうか。文部科学省の学習指導要領から読み解いていきましょう。

文部科学省によると、ダンスは、「創作ダンス」、「フォークダンス」、「現代的なリズムのダンス」で構成され、イメージをとらえた表現や踊りを通した交流を通して仲間とのコミュニケーションを豊かにすることを重視する運動で、仲間とともに感じを込めて踊ったり、イメージをとらえて自己を表現したりすることに楽しさや喜びを味わうことのできる運動(文部科学省/武道・ダンス必修化/2008)と説明しています。

新学習指導要領によると、ダンスを学ぶ目的は「仲間とのコミュニケーションを豊かにすること」「自己表現をすることに楽しさや喜びを味わう」です。つまり、ダンスが上手になることを目的にしていないので、ダンスが上手いかどうかよりも社会性や協調性が大事だといっています。

ですから、ダンスが得意な生徒は、ダンスを教えたり、集団をまとめたりしてリーダーシップをとりながら協調性を学び、ダンスが苦手な生徒は、教えてもらうなどしながらコミュニケーションを取ることが体育の評価につながっていくでしょう。このように、生徒間で課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力といった能力を育むことをねらいとしていると考えられます。

学校教育では、ダンスを通して、クラスの人間関係を基本として、ダンスが得意な人もそうでない人も、お互いに認め合い、協力して、集団の中で自分の責任を果たすというような学習態度を育てるということになります。

ダンスだからこそ得られる知育効果とは

ダンスの効果は、音楽の強弱やフレーズのまとまりにぴったりと合わせるのでリズム感がつきます。表現したい事をどのように伝えるかを考えますから、ダンスの技術ともに表現力が豊かになります。ダンス教室でのグループレッスンは、ステップや動きを覚えて音楽に合わせ、他の人との動きに揃えることを学びますから、長時間の集中力と注意力がついてきます。ダンスを続けていると体力や持久力が高まります。これらは、子どもたちが生きて行くために必要とされる能力です。

以上の知育効果の他に、ダンスだからこそ得られる効果を示した研究をご紹介します。山崎先生の研究によると、集団での歌唱とダンスを行うことで得られる共感性の高さは他の集団活動にみられないほどの特徴的な効果であるとしています(集団による歌唱・ダンス活動と向社会的特性との関係およびその教育的意義について/山崎晁男/大阪樟蔭女子大学研究紀要/2015)。

集団での歌唱・ダンス活動では、他の人に注意を向けながらリズムを合わせて、身体の動きを合わせることが、お互いの共感的な態度を強め、さらに信頼感を高めたそうです。また、集団での練習を重ね、作品を完成させて、パフォーマンスをやり遂げることから、自尊感情を向上させました。お互いに褒め合うといった肯定的な体験が影響していると考えられています。

対人関係が希薄になりがちだといわれる時代だからこそ、山崎先生の研究にみられるように、共感性はポジティブなつながりを作り、同じ目標に向かって進んでいくきっかけになります。子どもの頃から共感性を身につけることは、対人関係において他の人への理解を深め、円滑なコミュニケーションの基礎となり非常に重要です。

最後に 

親が子どもに習い事をさせる思いは、子どもの将来に役立ててほしい、好きなことを見つけて欲しいなど子どもを思ってのものが多いのではないでしょうか。そして、習い事の効果というと、子どもの心身の効果を考えることが多いかと思います。

子どもの習い事は親にも同じように効果といえるものがあります。親にとっても同じ年代の子どもをもつ親や教室の先生というさまざまな価値観の人との出会いがあります。新しい世界を知るチャンスともいえます。もう一つは、子どもの変化や成長を感じることができることです。目標を持って努力する姿は、教室だけでなく自宅での練習や関連した本や動画などへ関心が広がっていくことにも表れてきます。

習い事の効果は短期間に実感できることは少ないかもしれません。だからこそ、習い始めたら長い目で子どもを支えてあげて欲しいと思います。親も子もやり抜く心を一緒に育んでいけたらと願っています。

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